暖まる南大洋

気温の上昇と同期するように、近年地球表層システムは全般的に暖まってきています。近年地球の気候システム全体が余分に蓄えた熱量のうち、海洋がその80%以上を蓄えているのです。

 そして、その海洋の中でも場所によって暖水化の様子は違ってきます。南極海の表層の水温は全球平均よりも大きな割合で上昇しつつあります。南緯50度を中心とした範囲では、1000メートルくらいの深さまでもぐっても、ここ50年間で0.17℃もの水温上昇が大陸を取り囲むようにして起きているという観測結果が得られています。これは海洋全体での平均的な昇温率に比べて倍近く大きな値です。全体として暖水化しつつある海洋の中でも、南極海はとりわけ暖水化が強く、特徴的な海域となっているのです。

海の底で起きている変化

南極海は、世界中の海でもっとも重い海水を作り、世界の海の深層から底層にかけて冷たい水を供給している、深層循環の起点のひとつです。

いま、南極海でつくられているその「南極底層水」にさまざまな変化がみつかっています。ここ40年ほど、ロス海やオーストラリア‐南極海盆でみられる底層水は、低塩化し、かつ暖水化する傾向にあるようです。ウェッデル海の底層水にもここ20年ほどは暖水化がみられているようです。

こうした底層からの変化が起こっているのは、南極海だけに限らないようです。1990年代と2000年代に南北太平洋を横断したり縦断したりしながら太平洋の変化を詳しく調べてみると、北半球から南半球まで、底深層が暖まっていることが分かりました。しかも、その暖まり具合は、南極海に近いほど強く、海洋西岸に近いところで特に強いことが分かりました。この暖水化の信号は南極の沿岸域から伝わってきている可能性が高い、という仮説がたてられています。

淡水化するロス海

 ロス海はデータの少ない南極海のなかではよく観測されているほうだといえます。その昔からの観測データをあつめてみると、ロス海大陸棚上の塩分は低下しつつあることが分かってきました。

 ロス海の低塩化がすすむ原因はいくつか考えられます。降雪量が増加する、海氷の生産量が減少してブラインの排出が減る、棚氷や氷床の融解水の流入量が増加する、海洋の流れや混合の形態がかわる、といった過程は、海洋の塩分の低下に結びつきます。この原因がきちんと解明されたわけではありませんが、変化の大きさから判断すると、いまのところ陸氷流出の増加が大きな影響を与えていると考えられています。しかも、ロス棚氷などその場で氷が融けたわけではなく、パインアイランド氷河のあたりを中心とする西南極で溶けた真水が流出し、南極の沿岸流に乗って西向きにロス海まで流れてきて、大陸棚上の水をどんどん低塩化させている、という考え方が有力です。