水塊ごとに酸素安定同位体比は異なります。南大洋でもっとも高い値を示す水は周極深層水です。
これが降雪や陸氷融解水と混合し、さらには海氷生産によって変化することで、さまざまな値に変化します。
そしてその値は時間とともに変化することがあります。
オーストラリア-南極海盆I9セクションにおける酸素安定同位体比分布
酸素同位体比の鉛直分布は、周極深層水と表面付近から流入した淡水
との混合過程を反映します。周極深層水は比較的高い同位体比、表面付近
と沿岸には低い同位体比が分布している様子が捉えられています。
南極アデリー海岸沖における水塊特性のレジームシフトにみる海洋-棚氷相互作用
2010年にメルツ氷河舌が剥離した南極アデリー海岸沖において、主として現場観測に基づき、剥離前後での氷況と海況の変化の関係性を調べました。衛星観測から剥離後には氷河舌の下流側で海氷生産が著しく減少したことを確認するとともに、現場観測からメルツ氷河接地線近傍では棚氷水の体積が著しく増加していたことが分かりました。また海水の酸素安定同位体比の減少からも、陸氷融解成分の約20%の増加が推定されました。このことは、氷河舌の形状の変化が海氷生産を通じて海洋の貯熱量分布を変化させ、氷河末端部への熱供給にも影響を与える可能性を示唆しています。
Aoki, S., et al., Changes in water properties and flow regime on the continental shelf off the Adelie/George V Land coast, East Antarctica, after glacier tongue calving, J. Geophys. Res. Oceans, 122 (8), 6277-6294, 2020.
白瀬氷河は底から融けている。
日本の南極観測基地―昭和基地のあるリュツォ・ホルム湾の背後には,南極でも最大級の流動速度を持つ白瀬氷河が存在します。これまで西南極では氷床の末端部である棚氷の融解が加速していることが観測され,地球の海水準上昇への影響が危惧されています。一方,白瀬氷河を含む東南極では,氷床や棚氷がどの程度融解しているのか,その実態がよくわかっていませんでした。
第58次南極地域観測隊では,南極観測船「しらせ」により,湾の入り口から奥にある白瀬氷河の前面にいたる大規模な海洋観測に成功しました。その結果,白瀬氷河の下(底面)に,沖合起源の暖かい海水が流入することで,南極全体でみてもかなり高い顕著な融解が生じていることが分かりました。
氷河や棚氷のもととなっている淡水である“水(H2O)”は,大陸上に降った低い酸素同位体比(δ18O)をもっています。一方,混じりけのない海水のH2Oは,高いδ18Oをもっています。つまり,海水のδ18Oをみてあげればその海水にどの程度の融け水が含まれているかを推定することができるのです。白瀬氷河の前面で採られた海水のδ18Oは,西南極沿岸に匹敵する低さをもち,融解水の比率がかなり高いことが分かりました。δ18Oの分析は,氷河や氷床の融解のありさまを知るうえで有力な手掛かりをあたえてくれます。
Hirano et al., Strong ice-ocean interaction beneath Shirase Glacier Tongue, East Antarctica.
Nature Communications (2020) 11:4221 doi:10.1038/s41467-020-17527-4
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Last modified:
Jun 29, 2020